風邪


 「風邪」はとても誤解の多い病気です。ここでまとめて、いくつか書いてみたいと思います。

うがいと保湿

 茶色くて苦い、市販でも売られている「イソジン」という消毒液の入ったうがい薬。のどに噴射するスプレータイプもありますが、実はその効果は認められていません。これのおかげで風邪知らず、と愛好者も少なくありません。そういった方々は続けていただいても良いとは思うのですが、むしろ普通の水をおすすめします。こちらにはいくらかの効果が認められています。
 これは消毒薬が正常な粘膜も壊してしまうからではないか、と思います。水はばい菌を洗い流す効果もありますが、粘膜を保湿する効果が大切です。粘膜はとても繊細で、乾燥するとすぐにバリアー機能を失ってしまいます。風邪をひくと痰が出るのも、悪いものを排出する効果と粘膜を保湿するためなのです。
 あるソプラニストが新聞に、風邪予防のため部屋の加湿・ぬれたタオルを首に巻く・水分をこまめにとる・アメをなめるなどの対策を毎日おこなっていると書かれており、その徹底ぶりに驚きました。経験とプロ意識からの理にかなった対策と思います。ここまで徹底はできなくとも、部屋の加湿とこまめな水分摂取は、私もおすすめします。

マスクと手洗い

 マスクはうつされないためにも、うつさないためにも大切なアイテムです。相手に風邪をひいていることを知らせる意味もありますし、喉の湿度も保つ効果もあります。
 手洗いも大切です。鼻をかんだ手で触ったところから、感染が広がることがあります。石けんを使わなくとも、ざっとだけでも水洗いをして下さい。

入浴

 昔から日本では風邪をひいたときはお風呂に入らない習慣がありますが、これも研究の結果とくに意味のないことと言われています。たしかに、熱が出ているときに熱いお風呂に入ると熱がこもってしまったり、ぐったりと疲れて体力が奪われたり、湯冷めをしてしまうことはあります。ざっと汗を洗い流す程度は爽快感がありますし、かまわないと思います。

くすり

 ほとんどの風邪は薬を必要としません。というのも、これを飲めばなおる、注射をすれば一発という優れものがないからです。仕事をされているなど、休めない事情はよくわかるのですが、今の医学では致し方がありません。

 筆者も自分が風邪をひいたとき、だるさや熱でつらいときは解熱鎮痛剤を、咳が強いときは鎮咳剤を使うことがありますが、抗生剤はほとんど飲んだことはありません。もちろん、風邪の中には抗生剤が必要なものもありますので、その判断のためにも医師の受診はおすすします。
 注射を求められる方がいまだに多いのですが、これは昔、抗生剤や解熱鎮痛剤の注射が頻用されていた名残ではないか、と思います。今では副作用のために時として命を落とすこともあり、あまり使用されなくなりました。それでも希望があるときは、ビタミン注射や水分補給のため点滴を行います。良くなったと喜ばれることがあり、「病は気から」なのか水分やビタミンの補給が功を奏したのか、と考えてしまうことがあります。
 漢方はとてもよい薬の一つでしょうが、「風邪には葛根湯」というわけにはいかず、その正しい取り扱いには専門的な知識が必要です。漢方治療に詳しい医師を調べておくとよいでしょう。
 市販薬はいくつもの成分が入っており、まさに総合感冒薬という内容です。簡便ですし、ある一定の効果は認められると思いますが、時として悪化してから病院に来院し対応が遅れてしまう場合や、薬剤アレルギーで発疹が多数出るなどの副作用にも注意が必要です。

 熱はすぐに下げる必要はありません。治療の面からはむしろ、発熱は大切なサインですし、抵抗力のうえでも下げない方がいいと思います。ただ、子供が高熱を出して苦しんでいる様子を見るつらさもありますし、自分自身もつらいときは解熱鎮痛剤を飲んでしまいます。ただ体温調節の未熟な幼少時は、解熱鎮痛剤や保冷剤での急激な体温低下をきたすことがあり、注意が必要です。

咳と鼻水

 前述のように、咳には大切な自然治癒力がありますので、安易にはとめるべきではありません。ただし、熱や倦怠感がおさまり、痰の色合いも緑や黄色から白色になってきたのに、咳だけがのこって夜も眠れないときがあります。荒れてしまった粘膜が過敏になり、喉がいがらっぽく感じるにもかかわらず痰が切れない。むしろ治ってきている徴候なのですが、こんな時は私もよく鎮咳剤を用います。咳のしすぎで肋骨が折れたり、不眠で体力が奪われるよりは、加湿と薬で楽になりたいものです。ただ咳はとても強力な作用ですので、薬に過度の期待はしないで下さい。
 鼻水にいたっては、以前あった薬も心臓に対する副作用のため中止になり、今ではあまり有効な薬がないのが現状です。

 風邪はこれほど医学が発展してもなお解らないことが多く、対処方法が確立されていない病気です。「風邪は万病のもと」といいますが、抵抗力を知るひとつのバロメーターでもあります。ストレス、運動、食事、生活スタイル、笑いなど、日々をいちど見直してみることも大事だと思います。