「子供が急に吐き出した」


 夜中に一歳半になる私の娘が嘔吐しました。一回吐くだけならそれほど心配にもなりませんが、二回・三回と嘔吐を繰り返し、本人も気持ち悪くなるとつらくて泣き出してしまいます。口元に受け皿をあてて、背中をさすっていました。そう言えば昔、私も良くこうして背中をさすってもらいました。
 私は医師なので子供が吐いてしまっても落ち着いていられますが、ふつうは心配で病院へ連れて行くだろうな、と思いました。慌てる車の中でまた子供が吐き、診察まで長い時間を待っている間に子供は落ち着いて寝てしまい、吐き気止めだけもらって帰る。両親はぐったりです。そして翌日になり、どんな食事を食べさせればいいのか、下痢は心配ないのか、疑問が続出。お婆ちゃんの知恵袋代わりに、こんな時はどうしたらよいのかを書きたいと思います。

 吐いてしまうのは、どうして生じるのでしょうか。これは、胃から十二指腸あたりにある身体にとって悪いものを、お腹が吐き出して治そうとする防御反応です。つらいかも知れませんが、大切な治癒過程の一つなのです。
 食べたものから、あるいは手から手を伝ってきたばい菌がお腹に入り、そこで増殖します。するとお腹は「悪いものが入ってきた」と判断して、口の近くであれば吐いて出し、奥まで進んでしまったものは下痢として出そうとします。肛門近であれば一回便を出して終わりですが、腸は数メートルもある長いものです。早く外に出そうとして腸がさかんに動くことで腹痛を生じます。激しく腸が動くと汗が出るほどの激痛を伴いますが、放置しても大丈夫な痛みで、いくつかの特徴があります。
 おへそを中心とした広い範囲で、数分ごとにやってくる周期性、しぼるような強くおさえられるような痛み方をします。吐いてしまったり、便が出るといくらか落ち着きます。

こんな時は、出すものはなるべく出してしまい、お腹を温めてください。最初は嘔吐・嘔気が一日から二日続き、それが落ち着くにしたがって下痢に移行し三から七日続きます。
 こまめな水分の補給に努めて下さい。栄養がとれていないのは数日続いても大丈夫ですが、脱水だけは注意が必要です。水分がとれずぐったりしたら点滴が必要になります。水分はいっぺんにとると吐きやすいので、こまめに、冷えていないものをとってあげてください。スポーツドリンクとお茶や水分を交互にがいいかも知れませんが、本人が欲しいものでかまわないと思います。ホットミルクや乳酸菌飲料は人によってお腹が緩くなってしまいますが、病院に来て処方される薬も実はビフィズス菌のようなものなので、悪くはないと思います。
 下痢となっている間は、やはり人にうつる可能性があります。近くにいる人は手洗いをしっかりし、汚物などはすぐに廃棄しましょう。市販で売られているアルコール入りのウエットティッシュで触れた場所を拭くとより良いのですが、そこまでする必要もないでしょう。
 お風呂は他への感染の危険性がありますが、シャワーは洗い流す意味でも良いと思います。
 病院へ行く必要があるのは、水分がとれずに脱水気味なときだけです。吐き気止めは数時間しか効かず、内服薬も吐いてしまいますし、肛門からさす薬も出てしまいます。両親がこうした内容を十分に理解し、落ち着いて寄り添って背中やお腹をさすってあげ、「吐いたり下痢をするのは悪いことじゃない、身体が一生懸命治ろうとしているのだよ」と言ってあげて下さい。子供も落ち着いて、しばらくするとまた眠ってしまうと思います。
 小児救急の現場が大変だと叫ばれているなか、知識をつけてできることは家で対処することもまた大切だと思います。ちなみに大人の場合も大きくは違いませんのでご参考にしてください。