膝の痛み「変形性膝関節症」


 年齢とともに膝の痛みを覚える方が増えてきます。腰の痛みを含めると、高血圧や糖尿病よりも多いのかも知れません。しかし、意外に膝の痛みがなぜ起こるのか、どうすればよいのか、知らない方が多い印象です。なるべく解りやすく書いていきたいと思います。

 膝は本来、かなり耐久性の高い構造になっています。90歳をこえてもなお、走られている方もいらっしゃるほどです。それがなぜ痛みを出してくるようになるのでしょう。
 一つは筋力の低下です。膝はしっかりとした筋肉で周りを覆われていますが、それほど負荷をかけない毎日を過ごしていると、年齢とともに筋力が低下します。筋肉がやせ細ると、関節は骨や軟骨でささえることが多くなり、またわずかなずれを生じるようになります。そうした小さな負担を繰り返すことで、摩耗が早く進んでしまいます。使わないのに摩耗が早く進むというのは不思議な現象ですが、機械ではない人間だからこその現象です。



 ただ注意が必要なのは、筋力を取り戻すために、すぐに歩き始めることの危険性です。歩くことそのものは、実はそれほど筋肉に対して負荷を与えず、むしろ関節には負担をかけてしまいます。悪くすると膝の痛みを助長してしまうわけです。まったく運動のされていない方は、まずは十分な柔軟と膝に負担をかけない形からの筋力アップから始めて下さい。(図) また、歩くにしてもなるべく膝を高く上げて歩く、あるいは早めのペースで歩くなどで筋肉に負担をかけてあげるのも良いでしょう。女優の森光子さんが膝を軽く曲げて伸ばすスクワットを毎日150回続けられているのも有名な話です。これもとても良い習慣と思います。

 次に大切なのはやはり体重です。体重が1㎏増えると、膝にはその数倍の負担がかかります。体重が変わらなくとも、筋肉が脂肪に変わってしまったら負担は増加します。年齢を重ねると太ることは容易でも、痩せることは簡単なことではありません。体重を落とすことは膝にとって思われている以上に大切です。長持ちさせるためにも、痛みを取るためにも体重が増えすぎないように気をつけてください。

方法については、今までにも何度か書きましたのであらためて書きませんが、間食を避けて、一日の総カロリーを落としてあげることです。その一方で筋肉を落とさないためにも蛋白質の摂取と運動は忘れずにお願いします。

 膝関節のクッションとして半月板というものがあります。衝撃を吸収し、関節の動きをスムーズにする優れたものですが、裂けたりひっかかったりする困った一面があります。こうなると、痛みがなかなか改善しません。
こうしたときは、内視鏡という治療が一番です。一泊程度とはいえ入院、内視鏡とはいえ手術のため、なかなか思い切れない人が多いのも事実です。手術は一時の痛みですが、半月板の痛みは長く続くことが少なくありません。また手術に伴う合併症も少ない手技の一つだと思います。根本的な治療が比較的簡便に受けられるのですから、もう少し勇気を出して受けていただきたいと感じることが少なくありません。

 嫌がられる方は多いのですが、杖や歩行器を用いることは、膝の負担を軽くしてくれます。膝にかかる負担の一部を杖や歩行器が受けてくれることで、歩行の距離が伸び、痛みが改善されます。日常的にも手すりを使ったりすることも大切です。
また正座を避けたり、椅子やベッドの高さを高くすることで膝の負担はかなり減らせます。正座や床から立ち上がる動作は日本の文化でもありますが、膝にはかなりの負担を与えます。また和式便座も洋式に変えることは、身体の調子が悪くなる前から行っておくと良いと思います。

 筋肉の代わりに膝の装具をつけて安定感を持たせたり、足の裏に装具を当てて膝の負担位置をずらしたりなど、装具を利用するのもやや面倒ですが良い手です。医師とご相談下さい。サポーターをはめている方をよくお見かけします。保持力はそれほど期待できないのですが、保温が痛みを和らげることが期待できます。

 温熱や電気、マッサージや鍼灸などの療法は、根本的ではないのですが痛みを和らげる効果は期待できます。基本的には一時的な緩和のため、長い期間の通院が必要となることが少なくありません。膝の痛みは付き合って行かなくてはいけない要素も強いため、ある程度は仕方がないことかも知れません。

 痛み止めの内服は、特に熱を持ったり、腫れたりしているときには良く効きます。湿布などもとても沢山の方が愛用しています。膝へ注射を行う治療もあります。主治医とよく相談して受けて下さい。漢方薬もまだまだ習熟はされていませんが、関節の痛みにいろいろな薬があります。
また変形が強く進めば、関節を入れ替えるような手術まであります。そうならないように、とは思いますが、痛みを我慢するよりは一時のつらさを乗り越えて、旅行や楽しいことに自分の足をいつまでも使って欲しいと思っています。