禁煙


 脳梗塞、心筋梗塞、癌。日本の三大疾病のほとんどにタバコは影響を与えます。禁煙をすすめることが成功していたら、救えた命はもっと多かったに違いない。反省をこめて、禁煙する方法を調べ紹介したいと思います。
 まったく禁煙する気のない方がいらっしゃいます。体に自信があって止めるメリットが見つけられない、あるいはもう先は長くないのだから好きなだけ吸いたいと考えていないでしょうか。周囲の方も、本人に禁煙をさせたいのですが、なかなか難しく苦慮します。勧めれば勧めるほど、かえって天の邪鬼になってしまいます。
 肥満であれば、誰からも見ても明らかなため、本人も減量したいと考えます。アルコール依存症では「底つき感」といっていくところまでいかないと、なかなか自分が病気であること、治療が必要であることに至りません。禁煙をしてみよう、と心が動く理由は何でしょうか。
いま健康増進法の制定以後、施設内禁煙が増えてきています。自宅でも部屋の中は禁煙とするなど、喫煙をすることがおっくうになる環境がきっかけとなることが多いようです。また喫煙の害よりは、禁煙の効果の方があるいは本人にとっては入りやすいのかも知れません。心の底では、禁煙をするきっかけを探している人も少なくはないはずです。
また今はニコチンパッチ、電子メイル、マニュアル本が充実して、思っている以上に禁煙は楽になりました。数十年間吸っていた人が一枚のニコチンパッチで禁煙に成功することもありえる世の中です。その一歩を踏み出してくれる、あきらめずにそう信じながら待つことにしています。

 ニコチネルTTS(バッチの料金 1箱)
  10‥‥380円x14枚=5320円
  20‥‥400円x14枚=5600円
  30‥‥430円x14枚=6020円
(10,20,30はパッチのニコチン量を示します)
(当院での値段。消費税抜き)

1分禁煙すると、タバコのダメージから回復しようとする機能が働き始める。
20分で血圧は正常近くまで下降。脈拍も正常付近に復帰する。手の体温が正常近くまで上昇する。
8時間で血中の一酸化炭素レベルが正常域に戻り、血中酸素分圧が正常になって運動能力が改善する。
24時間で心臓発作の確率が下がる。
48時間でにおいと味の感覚が復活し始める。
48~72時間でニコチンが体から完全に抜ける。
72時間で気管支の収縮がとれ、呼吸が楽になる。肺活量が増加し始める。
2~3週間で体循環が改善する。歩行がラクになる。肺活量が30%回復する。
1~9ヶ月でせき、静脈欝血、全身倦怠、呼吸促迫が改善する。
5年で肺癌になる確率が半分になる。
10年で前癌状態の細胞が修復される。口腔癌、咽頭癌、食道癌、膀胱癌、腎癌、膵臓癌の確率が減少する。
American Lung Associationより

「禁煙」2


  まずは正しい知識と正しい方法が禁煙の要です。外来を受診していただいた方には、動機や今までの経過、失敗談なども含めて話し合いながら整理していきます。PHP研究所から出ている「完全禁煙マニュアル」高橋裕子著が安価でお求めやすく、お勧めしています。一読すると、正しい知識や方法が確認できます。理解できたか確認した上で、パッチを購入していただきます。さあ、禁煙にチャレンジです。
 ニコチンに対する依存は、吸いたいなと思った瞬間にパッチを貼ることで脱却することができます。しかし、何本と繰り返して染みついた「心の依存」は簡単には消えません。そんな時、電子メイルができる方は「禁煙マラソン」への参加という方法があります。
 アルコール依存の治療に最も効果を示すのは、同じようなアルコール依存者とともに励ましあいながら禁酒を続けることだと言われています。癌患者が一番ほっとする言葉は、「私も癌患者です」だそうです。人は我慢ができるほど強い生き物ではありません。同じ苦しみを持っている人の存在、あるいは克服した人からの励ましは弱い心を助けてくれます。
 禁煙マラソンとは、日本全国でメイルを通してお互いに禁煙を継続し合うシステムです。くじけそうなとき、先輩からの暖かな励ましやアドバイスが届いたり、継続できた喜びをメイルを通して共有できます。禁煙成功率は80%と類を見ない高さです。パッチとメイルの使用、現代らしい新しい方法が禁煙の成功率をぐんと上げたのです。

 電子メイルができないときは、先ほどの本を購入して、苦しいときに書物を開きましょう。助けになる言葉がちりばめられています。また誰かを巻き込んで一緒に禁煙をしたり、まわりの人に公言するのもいいかもしれません。良い人達を周りにおいて下さい。
 禁煙に失敗するのは、いつも「1本だけ」から始まります。1本を我慢する力はあっても、2本目を我慢する力は人間にはありません。アルコール依存も同じです。1杯を我慢する力はあっても、1杯飲んだらとめることはできません。しつこくやってくる「1本だけお化け」に注意して下さい。
 もし禁煙に失敗をしても、すべてが終わってしまったわけではありません。生きている間、あきらめさえしなければ、またチャレンジができるのです。人生と同じですね。歩き続けましょう。また近くにいる人は失敗したことを責めないで下さい。もう一度やってみようと、一緒に頑張るから、と励まして下さい。繰り返しますが、人は強くないのです。そして誰もが人を責めることができるほど、強くもないのです。
 小学生の喫煙が問題になっています。両親が吸っているのを見て、興味から始めるそうです。もし自分の子供がそんな幼い頃から吸い始めてしまったら、どう思いますか? 子供は親の背中を見て育ちます。一人だけの体ではありません。大切なあなたの身を案じている人がいます。それを忘れないで下さい。
 喫煙している人も、そのまわりの人も、医療者も、人の命の大切さを噛みしめて「禁煙」に向けてともに歩いていきましょう。

禁煙のコツ


 禁煙を成功した人からのヒアリングをしばらく続けてみたところ、いくつかの法則があることが解ってきました。
 一つ目が、タバコを辞める理由がどれだけ心に落ちているか、ということでした。心の底から納得した場合には、それほど苦もなく離脱できているようです。簡単な例で言えば、喘息や不整脈などはっきりと自分でもタバコのせいだと解る症状を感じて、辞める決心をされた方です。この場合の成功率はかなり高いようです。
 きっかけとしては弱くなりますが、症状は些細なものでも良いようです。ふと匂いが気になった、息切れがする、など人により多様です。あるいは禁煙の本を読んだ、説明を受けてなるほどとかなり深いところで納得できる(人からの知識・受け売りではなく、自分の知恵となったレベル)場合も同じような効果があるようです。
 そのためにはやはり人から言われるレベルから、自分から辞めようという決心がどうしても必要になります。

 ここで問題となるのが、辞めることで出てくる不都合です。「イライラしたときにどうしよう」「辞める必要なんて本当にあるの?」「みんなが吸っていたら自分も我慢できるはずがない」「禁煙はつらいのではないか」そういった理由が、止めどなく出てくるようです。
 これに対して例えば、まずこういった辞めない理由を全て書き出してみます。その上で専門家に聞いたり、インターネットで調べたり、禁煙本を読んだりすることで、ひとつひとつ納得できるまでこの理由について吟味します。
 ニコチンが持っているこうした不都合な点を想起させる魔法がとれれば、そこからは比較的スムーズに辞められるようです。
 十分に納得できていれば全くつらくない人も少なくありませんが、そうでなくとも数日から2週間程度が山のようです。それをこえれば、あとは「一本だけお化け」に注意をして6ヶ月程度を乗り切れば、やがてタバコの煙がむしろ「嫌な匂い」に変わります。そこまで行けば、禁煙の継続は確実になります。
 「終わりのある戦い」です。一人でも多くの禁煙が始まり、続くことを願っています。

禁煙のコツ2


 最近は、「どうやってダイエットに成功したのか」あるいは「どうやって禁煙をしたのか」を聞くのが習慣になってきました。禁煙について、ひとつ納得できたことがありましたので書いてみたいと思います。

 少し話が飛びますが、私は以前から水分をあまり取らないことを周囲から指摘されていました。水分はたくさん取った方がよい、という「知識」はありましたが、面倒であり、必要性を感じず、実行せずにいました。
 私は年に数回風邪をひいていました。たくさんの風邪患者さんと接するのでしょうがないと思っていましたが、自分の娘にうつしてしまうため何とかできないか、と悩んでいました。うがいと手洗いを習慣づけることでやや軽減できたのですが、まだ今ひとつです。
 そんなとき、昔の医学知識がよぎりました。喉の粘膜は乾燥に大変弱く、すぐに粘膜がほころんでしまい感染に弱くなる、というものです。丁寧に写真がついて解説されていたのを憶えています。人体の皮膚は感染に大変強いものの、薄皮一枚はがれると大変弱いことも経験上知っていました。
 うがいは手間でも、こまめに水分を取っていれば喉の粘膜を乾燥させないのでは? と思い当たり実行してみました。ちょうどその時、風邪にかかり始め喉がひりひりしていました。結果は良好。痛みは翌日には治まり、その後も風邪になる様子がありません。それからは水分を取ることが楽しくなりました。

 長い前置きになりましたが、このことでひとつ人間の法則を知りました。「知識」は役に立たない、しかし自分がしっかりと心に落ちて納得した「知恵」は、行動を一生変える力を持っている。

 「人間は弱い」が持論です。どんなことでも何か「楽しみ」や「嬉しさ」がないと持続しないと思っています。

 さて「禁煙」については二つの難問がありました。一つは、「禁煙しようと思わない人」。この人たちに禁煙を勧めても、ほとんどは成功しません。もう一つは、せっかく禁煙できたというのに、「一本だけお化け」に負けてしまい喫煙を再開してしまうことです。この問題を解決するにはどうしたらよいのでしょう。

 禁煙に成功した人の話を聞いていると、多くは「病気になってやめた」あるいは「やめようと決心して、大変だったけどやめられた」といったものでした。しかしその中に、ちらほら「あまりやめることに苦労しなかった」という人たちがいました。その人達の共通点が、さきほどの「心の底に落ちた」というか、やめるべきだと納得をされた方達で、この一本で最後と思うまでもなく吸わなくなった、というのです。

 私自身はまだそこまで思わせることはできないのですが、いくつか良書があるようです。磯村毅著「リセット禁煙」、アレン・カー著「禁煙セラピー」というもので、どちらも1000円を切る安さです。どれだけタバコが悪いものか説いているのではなく、吸わないでいることの方が自然であることを納得させ、禁煙の苦しさよりも喜びを感じさせる内容となっています。納得できるまでは禁煙しないでくださいと書いてある徹底ぶりです。
 禁煙をする気がない人も、禁煙を我慢して続けている人も、成功したにも関わらず「一本だけ」の罠にはまりそうな人も。一人でも多く喫煙は苦しいことで、禁煙は嬉しいことだと気づいて欲しい、と思わずにいられません。