頭痛(1)


 頭痛は、ありふれた症状の一つです。「わざわざ病院にかからなくても‥‥」と思われる方も多いとは思いますが、ひんぱんに痛みを感じる生活はわずらわしいものです。いくつかの知識を得るだけでも役に立つことがありますので、頭痛のある方はご一読ください。

「筋緊張性(型)頭痛」

 風邪による頭痛でなければ、ほとんどの方はこれに当てはまると思います。文字通り、筋肉が緊張(固くはってくる)ために生じる頭痛です。温泉に入ったとき、「はあ‥‥」と息をもらして全身が脱力する瞬間がありますが、あれがもっとも力のはいっていない状況です。あのときの首や肩の柔らかさを考えると、気を抜いている時でさえわれわれは肩に力を入れて生きていることが解ります。緊張やストレスあるいは運動不足があれば、なおさら肩は岩のように固くなります。このような状態が続くと、頭は全体にヘルメットをかぶったような重苦しさを感じたり、ひどくなるとズキズキとした拍動性の頭痛を生じます。頭痛薬、痛み止めを飲むだけでも痛みは改善することが多いのですが、原因は改善していないのですから、繰り返してしまいます。

 人によってマッサージを受けたり、ゆっくりとお風呂に入ったり、それぞれのストレス解消方法を実施しているようですが、なかなか生活習慣を変えることは容易ではありません。まずは、頭痛は身体が発している信号と思って、身体をいたわる気持ちになってください。事務仕事をしている方は、合間に大きく深呼吸をして背を伸ばし、肩や首を回してください。仕事で緊張する方は、気を使わないでいい人と笑い会う時間を大切にしてください。自分を責めるくせがある人は、夜空を眺めて、そんなことをしても誰も喜ばないことに気づいてください。
 てっとり早く薬で楽になりたい場合は、ミオナールやテルネリンといった筋肉を柔らかくする薬と、セルシンやデパスと言った安定剤を合わせて内服すると、かなり効果があります。眠くなるのが嫌であれば、寝る前に内服するだけでも良いかも知れません。痛み止めも、人により合うものが違いますし、胃に優しいものもありますので、主治医とご相談を。ただし、痛み止めそのものに依存すると、薬がないと不安になってしまったり、薬そのものが痛みを誘発したりすることがありますので、ご注意ください。薬は杖のようなものです。あくまで補助ですのでそれで問題が解決したと思わないでください。

頭痛(2)

「偏頭痛」

 一般的には、頭の片方におこる拍動性の激しい頭痛とか、頭痛の前に目の前がちかちかする前徴があると理解されていますが、実は必ずしもそうであるわけではありません。そんな理由で、前述の緊張型頭痛と区別がつきづらかったり、あるいは二つが合わさった混合型の頭痛があったりします。
 ではなぜ別の病名になっているかというと、緊張型頭痛は筋肉が原因の主体であるのに対して、偏頭痛は血管が原因の主体と言われており(最近は別の原因とも言われていますが)、その成り立ちが違うこと。もう一つ、そのために治療薬が異なってくるからです。
 トリプタン製剤という、市販では発売されていない薬が著効します。内服薬のほか、注射薬や鼻に噴霧する点鼻薬があります。保険を利用してもやや高い薬ですし、時としていろいろな副作用を生じることがあるなどの問題もありますが、激しい頭痛に悩まされている方は一度試される価値はあるかと思います。
 前述のほかにも偏頭痛にはいくつか特徴があります。緊張型頭痛が、長くだらだらと続きやすいのに対して、偏頭痛は月に数回、数時間のあいだ激しい頭痛と吐き気のために仕事が手につかず、横になって安静になりたくなります。

動作や音、匂いで悪化しやすいため、なるべく静かな落ち着いた場所を好みます。また週末などのストレスから解放されたときや、月経などによりおこりやすく、他にもダイエットなどの低血糖時やチョコレートやアルコール、柑橘類やナッツなどの食物が誘因となることがあります。
 予防として、テラナスと言う血管に作用する薬や抗うつ薬が役に立つことがありますが、このあたりは人により様々です。

「群発頭痛」

 緊張型頭痛や偏頭痛と比べると、その頻度はかなり低いものですが、痛みが激烈であるため、忘れずにいたい病気の一つです。
 年に1~2回、1~2ヶ月の間、連日睡眠中に1~2時間ほど、目の奥がえぐられるような激しい痛みを生じます。その痛みは激しく、頭をかきむしったり、えぐりとってしまいたいと思うほどと言われています。目が充血し、鼻水が出たりします。ただし、緑内障という目の病気でも似たような症状が出ますので注意が必要です。
 治療は偏頭痛と大きく変わりませんが、誘因であるアルコールをその時期止めることが大切であったり、発作時に十分な量の酸素を吸入すると楽になったり、ステロイドというホルモン薬を予防薬に用いることがあることが、ことなります。

頭痛(3)


その他にも頭痛の原因は沢山あります。頭痛があると、よく危険な病気を心配されて来院される方が少なくありません。

「クモ膜下出血」

 突然死の原因となる、とても怖い病気です。頭痛が唯一の症状と言ってもいいので、心配になるのも無理はありません。典型的には「突然やってくる今までに体験したことがない激しい頭痛」ですが、頭痛の強度の大小は時としてあてになりません。どちらかと言えば「突然」が大切な所見です。ほとんどの頭痛は徐々に悪化していくのに対して、この病気はまさに突然やってきます。新聞を読んでいたとして、前の文字までは痛みはなかったのに、次の文字を読んでいるときには激しい頭痛となった、と言われるほど突然やってくるといわれています。前兆がないわけではありません。運転している途中で軽い頭痛が突然して、車を止めて休んでいたら治った、といった程度の前兆があることがありますが、この時点で発見するのはほとんど不可能でしょう。
 検査は頭部CTですが、これも万能ではありません。わずかな出血は見逃してしまうことがあります。より詳しいと言われる、背中から針を刺して髄液をとり出血を確かめる検査は、CTよりも大変で疑ってもなかなかできるものではありません。
 そして診断がついたとしても、すぐに手術ができない場合も多く、生死に関わる怖い病気です。

「脳腫瘍」

 やはり脳腫瘍を疑ってCTを希望される方も少なくありませんが、ほとんどはありません。脳腫瘍の場合は、言っていることがおかしくなるとか、けいれんを起こすとか、麻痺を生じるとかの症状の方が多く、頭痛はいくつかの症状の中の一つです。
 頭が痛くて目が覚めるが、しばらくすると良くなる。頭痛が日々少しずつ強くなる、と言った特徴があります。人は横になって眠ると、重力によって下にたまっていた血液が頭に戻っていきます。夜中の間にそうして脳腫瘍がむくみだし、朝方に頭痛で目が覚めるわけです。また腫瘍はだんだんと大きくなるので、痛みが日に日に大きくなっていくわけです。
 検査として頭部CTよりもMRIという検査の方が詳しく解ります。多くは予約が必要です。

「髄膜炎」

 これも怖い頭痛の一つです。脳はちょうど豆腐のように、水のなかにぷかぷかと浮いています。その水を髄液というのですが、その髄液にばい菌が入る病気です。ほぼ必ず好熱を出します。高熱と頭痛だけでは風邪と区別がつきませんが、特に後頸部が痛んであごが胸につけられないもの、眠りがちな場合はこの病気を考えなくてはいけません。背中から針を刺して髄液を抜き取って診断をします。入院をして抗生剤治療が必要です。

頭痛(4)


 その他の頭痛です。

「風邪」

 もちろん風邪による頭痛もあります。しかし、どの病気もおだやかな症状で発症した場合、風邪と勘違いしてしまうこともあります。そのため、医師が「大丈夫です」と患者さんに伝えるのは、けっこう勇気がいることなのです。皆様もぜひ、風邪の頭痛とたかをくくらないようお気をつけ下さい。

「緑内障発作」

 緑内障とは、目の中の圧が高くなる病気です。普通は徐々に高くなり、しばらくは症状もなく進行し、最後は失明してしまうという怖い病気です。この病気にはまれに急激に目の圧力が高くなる「緑内障発作」というものがあり、このときに激しい頭痛を経験することがあります。目が充血し、押すと痛みがあり、本来すこし柔らかいはずの眼球を固くふれます。詳しくは眼科へ受診し、眼圧を測定しなくてはいけませんが、目から来る頭痛もあるのです。他にも眼鏡の度が合わずに、こめかみのあたりが痛むというのも少なくないようです。

「副鼻腔炎」「中耳炎」

 耳鼻科領域の頭痛もあります。副鼻腔炎の場合は、鼻の横・目の下あたりが重たい感じがあり、下を向くとそれが顕著になります。鼻が詰まるか、汚い鼻汁が出ていることが多いです。

中耳炎は耳の痛みですが、その周囲も痛むので、頭痛と間違われることがあります。

「帯状疱疹」「神経痛」

 頭痛と言っても、「ぴりっ」と電気が走るような、短いサイクルの痛みが繰り返される場合は、頭痛とは別に神経痛も考えなくてはいけません。その中でも「帯状疱疹」と呼ばれる、皮疹を伴うものには注意が必要です。最初は痛みだけですが、そのうち痛みにそって赤い発疹が出てきたら、すぐに医師を受診してください。早期に薬の内服か点滴をすることをおすすめします。悪化すると治った後も痛みが続いてしまう「帯状疱疹後神経痛」という困った病気が残ってしまうことがあります。

「歯肉炎」

 頭痛と勘違いされることはあまりないはずですが、歯からも痛みが来ることがあります。他にも、あまりに高度の緊張がつづいていると、歯をかみしめすぎて顎の関節が痛んでくる、と言うこともあります。

 頭痛の治療のほとんどは、痛み止めを飲むしかありません。しかし、原因がはっきりすることにより予防策があったり、後遺症を軽減できたりすることもあります。頭痛と言ってもいろいろある、頭のCT検査をすればすべて安心というわけではないなど、頭の片隅にでも覚えていていただけると幸いです。